2013年10月16日水曜日

大都市災害



自然現象=災害ではない
自然現象としての地震は常にどこかで起っている。大きな地震が人の居ない砂漠で起っても、人的被害は出ない。しかし、人口密集地域で起れば大きな災害となる。南海トラフ地震予測でも津波34mが来る四国の黒潮町より、津波13mではあっても、人口密集地の静岡市のほうが被害が大きい。実際、南海トラフ地震予測死亡者総計の32万人のうちの3分の一、10万人は静岡市の死亡者と予測されている。つまり、自然現象=災害 なのではなくて、

        自然現象防災(対策)= 災害(結果)となる。

また、災害の大きさは災害弱者の数にもよる。災害弱者とは高齢者、障害者、旅行者や買い物客など土地勘の薄い人など災害の時、一人では避難できない人々である。実際、災害での死亡者は圧倒的に高齢者が多い。従って、大都市災害を考える時、一人暮らしのお年寄りの問題は大きな課題となってくる。また、対策といっても国レベル、市町村レベル、個人レベルとあり、それぞれで最善を尽くして頂かなければならない。



都市特有の災害要因
大都市で災害が起れば、残念ながら無傷というわけにはいかない。都市防災の目的はリスクをゼロにすることではなく、対策をすることで「減災」することである。まず、都市特有の要因がリスクを高めていることを把握しよう。

   人口集中と施設の高密高層化
   新旧が混在する建造物、それによる危険の偏在
   地盤沈下や軟弱地盤
   地下空間への進出
   エネルギーの高密消費と供給網での大量蓄積や滞留
   住民の移動距離の大きさと人間関係の希薄化




 
中央区佃ではタワーマンションと古い木造家屋が混在しており、同じ地域でも危険の現れ方が違う。タワーはマンション単位で管理会社も加わり、独自に防災対策が為されている。近所の木造住宅の避難民をマンションで受け入れる際の賛否の問題が生じてくる。
             (写真は佃の高層マンション)





軟弱地盤と水害
東京の東部、川の手地区(ゼロメートル地帯)は江戸時代、大湿地帯で人が住んでいなかった地域である。人が住み出したのは大正後期、昭和初期という比較的最近の話なのだ。現在、江戸川が氾濫すると5.5mの浸水となり、江戸川区67万人のうち3階に避難できるのは13万人のみという試算がある。さらに2100年までには温暖化で海水が約1m上昇すると言われており、川の手地区対策は長期的にも必要になってくる。さらに、最近は東京の地下水が20m、ところによっては40mも上昇してきており、液状化や地下鉄への水漏れが心配される。都市の道路は舗装されており、雨水が地面に吸収されにくくなっており洪水の発声を早めたり、大洪水をもたらしたりする。川の氾濫が無くても、豪雨などで排水が間に合わず、内水氾濫を起こす箇所も多数ある。



火災旋風対策
(右写真 関東大震災の火災旋風)

関東大震災では8割が焼死ということで、注意すべきは火災旋風(火炎の竜巻)である。感状7号線と山手線の間が木造密集地帯であり、東京都は区画整理に取り組んでいる。大規模火災の焼け止まり要因は、道路・鉄道などが4割、耐火建造物が3割、空き地などが2割、消防活動による延焼遮断は約1割であった。それゆえに道路や空き地でスペースを作り火を遮断することが優先されるべきなのだが、高齢者住居の立ち退き問題などで予定通りには進んでいないようだ。関東大震災ではいわゆる広域避難所で3万8千人の方が火災旋風により焼死してししまったことを忘れずに、火の周りをシュミレーションして広域避難所(延焼からの避難所)のさらなる安全性を高めなくてはならない。


交通規制
阪神淡路大震災では多数の道路が地震によって被害を受けたこと、外部からの大量の流入車両によって大渋滞が引き起こされた。それで消防車や救急車の走行が著しく妨げられた。人命を最優先にするならば時間が勝負となるので、道路使用にも優先順位をつける必要が出てくる。東京では震度6以上で交通規制が敷かれ、環七から内側は全面車両通行禁止となる。また車による避難も禁止される。


地下空間
大都会には広大な地下空間がある。発展のスピードが早く、規制が後追いになっている。地下空間の不安要素は・・・

1.地震による構造的破壊で地上に出られなくなるのでは
2.火災時にはすごい煙で逃げ出せないのでは
3.窓が無いので爆発が起れば一瞬にして炎に包まれるのではないか
4.水が流れ込んだら水没してしまうのではないか

地下は地上の高層階より揺れ自体は少ない。しっかりした最近の都心の構造物なら地下は比較的安全なところともいえる。ただし、近くに川があったり、低地地帯の場合は要注意。火災で怖いのは煙であり、ハンカチを口にあてる、低い姿勢で移動するなど、煙を吸わないことが重要である。地下道は通常60mおきに非常口があるのであせらず、壁沿いに歩いて出口を見つけて頂きたい。

水害がなければ、地下鉄は地上電車より早く回復する。地下鉄は自家発電があり真っ暗にはならないことになっている。丸の内線、銀座線は古いので駅トンネルなどの建造物にダメージが出やすい。また、高架線が線路脇にあるので、やたらと線路に降りると危険である。

大型商業施設
百貨店など人が多く集まるところの耐震化を進めるため1995年には耐震改修促進法が制定された。湾岸の大型商業施設は市町村と協力して一時避難所となっている所もある。大型商業施設は不特定多数がおり、パニックが起りやすいのでマス避難、誘導の知恵と訓練が施設側に要求される。最近増えている「駅ナカ」は従来、交通手段を利用するための場所と位置づけられ、人が滞留する場所ではないとして、消防法では改札口内側にはスプリンクラーの設置を義務づけていない。大型商業施設と同じようにマス避難、誘導の対策が要求されるであろう。


東京都の防災対策の課題
内閣府中央防災会議、首都直下型地震対策検討ワーキンググループによると、

1.耐震化の促進
2.木造密集市街地の整備、火災も危険
3.津波対策、帰宅困難者対策
4.自助、共助の強化
5.発災時における広域連携の体制
6.首都中枢機能の持続性確保

                 (有明地震防災館内の災害オペレーションルーム)


そして、さらに以下の被害発生の認識と取り組みの必要性

1.甚大な広域的火災延焼被害に対してどのような対策を取るべきか。
2.膨大な避難者、平日昼間大量の帰宅困難者。
3.経済機能、交通寸断、遮断による人、物流の影響、燃料、電力等の不足による機能不全。
4.域内交通の長期途絶による住民の生活物資の不足疑念
5.広域的災害応急体制
6.防災教育、訓練の徹底
7.迅速な復旧。復興に向け事前に何を考えておくべき。

ただ、放射能対策や富士山噴火対策などが考慮されていないのが少し不安だ。市町村レベルでのこの分野では市民への教育が十分でないように思われる。また、約70万人という避難所に入りきらない人の問題があり、「疎開」など比較的安全な地域への移動ということも検討する必要がある。

首都圏直下型地震の場合の被害総額は112兆円。南海トラフの場合は220兆円(これらは原発災害を含まず)。いずれも国家予算を大きく上回る。世界都市東京が壊滅的ダメージを受ければ、世界の経済にも影響する。日本国債の暴落や円激安に進む事も考えられる。なにより、東京は日本の「頭脳」なのだ。大災害に向けての首都機能移転(Contingency plan)がどのくらい具体的に進んでいるのだろうか?

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一般社団法人 災害支援団体クラッシュジャパン
次期東京災害対策担当
防災士
栗原一芳(くりはら かずよし)
crashkazu@gmail.com


2013年10月2日水曜日

防災と災害弱者



 日本の人口比率

今日、日本の人口は127、799、000人。うち東京都は全国人口の10.3%(1319万6千)でダントツ一位。次いで、神奈川県(905万8千)、大阪府(886万1千)、愛知県(741万6千)そして、埼玉県(720万7千)と続く。日本全国の人口は減少の傾向にあるが、東京の人口は増えている。同時に高齢者や、一人暮らしも増えている。これは後述するが防災上、脆弱な分野である。外国人は3年連続で減少している。生産年齢(15歳から64歳)の割合が一番高いのが東京。老年人口(65歳以上)は沖縄県を除く46都道府県で年少人口を上回っている。75歳以上が人口の1割を超える。人口比率では

年少人口(14歳以下)    13.1%
生産人口(15歳から64歳) 63.6%
老人人口(65歳以上)    23.3%


防災と老人人口

現在でも他国と比べ、年少人口割合は最も低く、老人人口割合は最も高い。堂々たる老人大国だ。実はこれは防災から見ると大きなチャレンジとなる。災害で犠牲者となる大半は高齢者だからだ。災害は弱いものいじめ。つまり脆弱な部分に大きな被害が出る。災害弱者とは

   高齢者
   障害者
   外国人
   乳幼児(お母さん)など

つまり、この人達は一人で避難できないし、被災した時に他人の助けが必要になる。特に一人暮らしの場合(そして外との交渉が無い場合)どういう状態なのか周りが気がつかない事が多い。また、いつものデイケアのヘルパーも震災直後は来られない。ただでさえ、プライバシー確保がむずかしく、集団生活に慣れない人にはきつい避難所生活で体調不調になり、持病が悪化する等問題が起きやすい。精神的に弱い人はひきこもりや鬱になる可能性がある。また、逆にみなし仮設(自宅避難)の場合、情報や物資が受け取れない問題もある。若い人ならインターネットも使えるが、停電の中、一人暮らしのお年寄りは孤立してしまう。そこで普段からの「顔の見える」関係つくりが強調されている。自閉症の子を持つ親などは避難所でいつも以上に気をつかわなければならなくなるだろう。精神面でもサポート体制が必要になる。そのように避難所では多様性を配慮した支援が必要になる。ボランティアの派遣が始まったら、要援護者に関する情報の整理、発信、マッチングなどボランティアコーディネータ-の役割が大変重要となる。

要援護者とは

1.早急に自力で避難困難な人、地域とつながりがなく、社会的に孤立状態にあり、周囲からその存在さえ認知されていない人。

2.周囲の人々は存在は認知していても、情報が届きにくい人

3.危険回避、避難行動、避難生活、復旧、復興活動を自力では行えず、他者より援護が 
        必要な人々

4.乳幼児、要介護者、思い病気を抱えており(またそのような病人を抱えており)自分
        だけで避難できない状態にあり支援が必要な人々。

5.理解判断がむづかしい人

6.旅行者、観光客等土地勘がなく、情報なく判断できない人々
                
 (東京ボランティア市民活動センター)



避難時のヒント
要援護者は避難に時間がかかるので、警報の出た時点では遅すぎる場合がある、常に災害情報を聞きながら、適時判断し、早めに避難行動を開始する。普段、顔の見える関係を作っておく。

生活支援時のヒント
避難所から慣れない仮設住宅、自宅など移動の際、引っ越し、買い物、病院付き添い、自宅片付け、心のケアなどの支援が必要となる。特に仮設では要援護者は孤立しやすく、周りに支援の輪の構築が必要。生活支援相談員、民生委員等と連携して支援する必要あり。多様なニーズに答えるため、専門家との連携、ネットワークが重要。


増加する高齢者人口の中で、援助するボランティアは圧倒的に足りない状況。実際は自分も避難しなければならない状況で他者の援助がどこまでできるのかも課題。ともあれ、行政だけでは大災害時には対応できないので、災害時市民ボランティアを養成する講座が社会福祉協議会などで用意されている。ご関心ある方は、それぞれの市町村にお尋ね下さい。


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次期東京災害対策担当
防災士
栗原一芳(くりはら かずよし)