先日の熊本地震では、震度7の揺れの後に、豪雨があった。まだ、多くの屋根にブルーシートがかかっていた時である。また、激しい揺れで、すでに地盤が弱くなっているところに豪雨で土砂災害が発生した。このように複数の災害が同地域を襲い、被害を大きくするケースがある。
日本は世界一危険な水害国!?
日本の浸水可能地域は国土の10%。しかし、そこに人口の50%が住んでおり、日本の資産の75%がある。大阪、名古屋、東京といった大都市は湾岸にあり、河口でもあり、基本的に低地(ゼロメートル地帯含む)だ。また、広大な地下街も発達している。日本は世界で4番目の多雨国であり、世界平均の2倍降る。
土砂災害危険箇所は全国で52万箇所を超える。特に地震後の豪雨だと、表土層だけではなく、深層の地盤まで崩壊する深層崩壊が起こる可能性がある。川の水位をコントロールするのがダムの役割でもあるが、豪雨が下流から上流に移動する場合、下流の水かさが先に増えて氾濫してしまう。また、上流でも異常な雨量でダムの水かさが増し、超流してしまうこともある。事前の土石流対策、地すべり対策、がけ崩れ対策が必要となる。
ハザードマップなどでの行政側の「知らせる努力」が必要なのは言うまでもないが、住民側の「知る努力」も必要だ。知らなかったでは済まされない。ちなみに、住宅地選択にその場所の危険度は通常、ほとんど考慮されていない。都会で川が側にないからといって安心してはならない。大都市のヒートアイランド化などで、局地的な豪雨が短時間に降る、そして雨量が排水能力を越えれば内水氾濫となり、たちまち付近は浸水する。道路は川状態に、そして地下街に水は流れ込む。今日、日本で35度の猛暑は例外的ではなくなってきている。地球温暖化に伴い、スーパー台風の進路も北上してきている。いつの日か風速70mのスーパー台風が東京湾を襲う日も来ると考えたほうがいい。
(荒川氾濫想定)
水害時、東京はどうなる?
1)
オフィスビル、マンションの孤立
浄水場に泥水が流れ込めば水は使えなくなる。また、最近のオフィス
ビル、マンションは電気系統の制御室が地下にあるので、そこが浸水す
れば、停電となる。ライフライン(水道、下水、電気、ガス)がやられ
る。それに道路も浸水して使えなくなる。従って、オフィルビルやマン
ションは孤立する。水はしばらく引かないので、ボートやヘリによる救
出となるだろう。
2)
地下街の浸水
これだけ大規模に地下空間が利用され、しかも洪水危険地帯に位置する国は日本だけだという。水は高いところから低いところへ流れる。電気系統がやられると排水ポンプも動かない。現在、地下鉄の地上入り口に1mの止水板が設置されている。しかし、荒川氾濫時のシュミレーションでは赤羽で2m浸水する。ゼロメートル地帯では最悪5mの浸水となる。当然、1mでは間に合わない。現況では17路線で97駅が浸水することとなる。氾濫水には土砂が含まれているので、それにより止水板がうまく閉まらないこともありえる。ともかく、一箇所からでも水が侵入すれば、地下鉄が水路となって大手町などの都心部まで到達してしまう。荒川放水路完成後80年に渡って、氾濫がないのは、たまたまであって、上流の秩父で、3日間600ミリ降れば、破堤氾濫を起こすと専門家は指摘する。
(止水板が機能するはずの地下鉄入り口)
3) 台風時の高潮
ちなみに、南海トラフ地震時には3.8mの津波が大阪を襲う。大阪の計画高潮位は3mとして防潮堤が建設されているから、津波は堤防を乗り越え、確実に市街地に達してしまう。東京湾の場合は、首都直下型地震ではほとんど津波は起こらないとされる。東京湾海底の地形から、過去に大きな津波がなかったことが分かる。しかし、スーパー台風の高潮は5mとも言われる。そうすると確実に堤防を越え、市街地に水は侵入する。津波と違って高潮の場合、堤防が壊れても、台風が過ぎてしまうまで潮位が下がらず、被害は拡大する。
首都水害の場合、地下空間水没と地下鉄資産の喪失(6ヶ月の運休)などを入れ、経済損失は91兆と見積もられる。これは首都直下型地震の被害総額95兆に匹敵する。つまり、地震だけではなく、首都水害でも同様に「国難」となりえるのだ。今後怖いのはテロ水害だろう。
複合災害
東京は直下地震が今後30年で70%という高確率であり、さらに台風による東京湾の高潮、豪雨による荒川の氾濫などが現実として予測されている場所である。また、富士山の噴火も2020年までと見る専門家もいる。もし、それらが同時期に起こったらどうなるのだろうか。起こらない保証はないのだ。1707年、宝永地震(M8の南海トラフ3連動地震)が発生。死者5038名。その49日後に富士山が噴火。真昼でも薄暗く、江戸に4センチの火山灰が降ったという。今の東京都心に4センチの火山灰が積もると交通は全面的に止まり、通信システムにも影響が出る。さらに古くは869年の貞観地震(東日本)の9年後の878年に関東地方で大地震、されに18年後の887年に東海道沖でM8.0~8.5)の仁和(にんな)地震が起きている。もし歴史が繰り返されるなら、2011年東日本大震災の9年後、2020年東京オリンピックの年に関東地方の大地震(首都直下型地震)が起きることになるし、やっとそれから回復した頃に南海トラフ地震が起きる可能性があるということになる。過去の周期から見ても2030年代には3連動(南海、東南海、東海)の南海トラフ地震が起きる可能性は大きいのだ。
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巨大複合災害過去の例
⚪️江戸末期の1854年12月23日、24日に安政東海(M8.4)安政
南海地震(M8.4)が32時間差で発生、死者3万人。
⚪️1855年11月11日安政江戸地震(M6.9)で死者約1万人。
⚪️1856年9月23日には安政江戸暴風雨(台風)、東京湾で巨大
高潮発生、死者10万人。
これらは1年おきに発生した!
現代版に翻訳すれば、「南海トラフ地震」1年後、「首都直下地震発生」、その1年後、「スーパー台風」が東京直撃ということになる。「日本水没」(朝日新書)著者の河田恵昭氏は安政の巨大複合災害の失策により民衆の不満が鬱積し、内圧と外圧が相乗して明治維新新政府が実現したと見ている。相次ぐ自然災害で江戸幕府は弱体化していた。大災害は政治的体制にまで影響を及ぼす。
今後ありうる巨大複合災害
20XX年〜:
⚪️首都直下型地震発生 死者:約2.3万人。被害総額95兆円。
⚪️首都水没発生、死者:約15.9万人 被害総額91兆円。
⚪️南海トラフ巨大地震発生 死者:約32万人 被害総額220兆円
⚪️富士山噴火
世界都市東京が壊滅状態となれば、為替、株価、国債にも多大な影響が
出る。
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避難しない人々
東日本大震災の津波被害の大きな原因は住民の避難が遅れたことにある。避難しない、あるいは津波が来襲してから避難する人が30%だったそうだ。避難しない人が3割もいるのには驚くが、緊急時には「正常化バイアス」が働いて、「まあ、大丈夫だろう。ここまでは来ないだろう。自分は死なないだろう。」と思いがちだ。また大多数の人が避難しないと、「皆がここにいるんだから大丈夫」と思ってしまう。それ以来「率先避難」の必要が語られている。
さて、荒川氾濫の単災害でも、足立区、台東区、墨田区などは全区避難となる。
そのような100万人単位の避難をどうするのかという問題がある。首都直下地震だけでも帰宅難民が首都圏で800万人、2週間後の避難民が700万人となる。1日の食料だけでも数万トンとなる。とにかく東京は他の地域と比べ物にならない数の被災者が出る。しかし、近年は避難勧告があっても実際避難する人が極端に少なくなっているという。同上の書からの統計だが、
⚪️2000年東海豪雨災害 愛知県での避難率9%
⚪️2006年11月、2007年1月に発生した北海道千島沖地震での津波警
報下の避難率はそれぞれ、13.6%、8.7%。
⚪️2010年チリ沖地震津波警報では避難率3.8%
低い避難率は致命的となるにもかかわらず、なぜ逃げないのか?それには災害未経験者は避難情報を軽視する傾向があるという。また、高齢者が避難のタイミングを失いやすいことも指摘されている。
防災啓発と積極的取り組みを
「このようなリスクを前に、首都圏ではあまりに無防備である。その最大の原因は、そこに住む人々、そこで働く人々の無関心である。しかし防災意識を啓発できない政治家、官僚、自治体職員、研究者、マスメディア関係者にも大きな責任がある。・・・・首都直下地震と首都水没という『複合災害』を考えた時、この国難に対する国家安全保障の取り組みがあまりにも貧弱である。・・・このような首都圏の現状は『壊滅』という氷山に向かうタイタニック号に例えられる。」
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参考本
「日本水没」河田恵昭 著 朝日新書
「首都水没」土屋信行 著 文春新書
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一般社団法人 災害支援団体 クラッシュジャパン
次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士
栗原一芳
(くりはら かずよし)
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