西日本豪雨〜記録的な豪雨が広範囲で
2018年7月の西日本豪雨、7月12日現在で死者184名、行方不明者64名。河川氾濫が16件。それに伴う土砂災害が448件。被災地域は、北海道西部、九州北部、中国、四国、近畿、東海と広範囲に渡った。高知県では年間平均雨量の半分以上が10日間で一気に降った。
豪雨が東京直撃だったら
豪雨が東京直撃だったら「死者7400人、被害総額64兆円」と専門家が試算している。
スイス再保険会社「スイス・リー」が2013年にまとめた「自然災害リスクの高い都市ランキング」でなんと東京・横浜が世界第一位となっている!怖いのは地震だけではない。東京は水害に弱い。昨今のゲリラ豪雨の増加、温暖化による台風の巨大化(風速70m級)と進路の北方向への移行を考えると東京が大水害に会い、浸水してしまう可能性も否定できない。
「首都水没」(文春新書)の著者で、リバーフロント研究所・技術参与の土屋信行氏はこう話す。
「今年6月に土木学会が発表した資料によると、東京で洪水や高潮が発生した場合、建築物などの資産被害の総額は64兆円にのぼると推定されています。被害は室戸台風(1934年)の上陸と同規模のものを想定していますが、雨量は今回の豪雨災害の方が多い。墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区ほか都内の海抜ゼロメートル地帯はすべて水没してしまうでしょう」
「今年6月に土木学会が発表した資料によると、東京で洪水や高潮が発生した場合、建築物などの資産被害の総額は64兆円にのぼると推定されています。被害は室戸台風(1934年)の上陸と同規模のものを想定していますが、雨量は今回の豪雨災害の方が多い。墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区ほか都内の海抜ゼロメートル地帯はすべて水没してしまうでしょう」
人的被害も大きい。中央防災会議の試算では、利根川や荒川などの堤防が決壊し、東京湾で大規模な高潮が発生した場合、最大約7600人の被害者が出ると想定されている。
首都圏においては、2009年1月に中央防災会議の専門調査会がとりまとめた「荒川堤防決壊時における地下鉄等の浸水被害想定」が発表されている。
想定では、3日間に550ミリ以上の降雨によって荒川の岩淵水門付近で堤防が決壊し、東京都北区、荒川区、台東区、中央区など隅田川周辺に大規模な浸水が発生。堤防の決壊から10分後には地下鉄南北線赤羽岩淵駅、4時間後には千代田線町屋駅、6時間後には日比谷線入谷駅で浸水が始まり、地下トンネルを伝って都心に水が流れ込み、最大で17路線97駅、延長約147kmの線路が水没する可能性があるとしている。
上の想定では3日間に550ミリだが、今回の西日本豪雨では、7月8日までに高知県の8地点、岐阜県の4地点、徳島県の2地点、長野県の1地点で、すでに1000ミリ以上の降雨量が観測されている(気象庁)。これだけの降雨が首都圏で起こらないという保証はない。
荒川水害の歴史
比較的最近のケースだけでも、1947年カスリーン台風で熊谷市久下地先において100mにわたり堤防が決壊埼玉県内の全壊・流失家屋は1,121戸、床上浸水家屋は44,855戸、1000人超の死者が出た。1982年、新河岸川では被害総額211億円にも及ぶ甚大な被害。1999年、熊谷水位観測所、治水橋水位観測所では観測開始以来、過去最高となる水位を観測。2007年、三峰雨量観測所にて総雨量573mmを記録。熊谷水位観測所では観測開始以来の最高水位を記録。
今回の西日本豪雨で7月5日早朝、神戸地方気象台は大雨警報を発令。8日、午前中には雨は上がったが、発令は夜まで解かれなかった。晴れていても大雨警報とは?と住民は困惑したが、天気が回復しても、地中には水が残っており、土砂災害の危険性は残っている。また、川上の山岳地帯で豪雨があると、川下での天気が回復していても川の水かさが増えることがあるので要注意だ。2007年の三峰のケースは正にそれで、荒川源流の秩父三峰で573ミリの豪雨となれば、時間差で晴れていても荒川下流の水かさが急増することになる。「荒ぶる」川、荒川には氾濫の歴史がある。
堤防決壊には2種類あり、1つは越水決壊で川の水が増量し堤防を超えて流れ出し上部から決壊するもの。もう1つは浸透決壊で長時間の雨で堤防に水が染み込み、堤防ごと崩れてしまうもの。ゼロメートル地帯の場合、一度水が流れ出すと水は高い方から低い方へと流れるので、たちまち町全体が浸水してしまう。
もう1つ指摘すべきはスカイライナーが通る京成本線が荒川を越境するための鉄橋だ。鉄橋のかかっている部分は堤防をえぐって通常の高さより低いとこを走っている。つまりその部分だけ堤防が低いのだ。ここを起点に堤防が決壊する恐れがあるという。
地下鉄という水害凶器
こうした豪雨は、鉄道インフラへの影響も甚大だ。国土交通省は9日、今回の豪雨でJR西日本やJR四国をはじめ、11鉄道事業者の36路線が運休していると発表した。都市部で発生した場合、懸念されるのが地下インフラ、とりわけ地下鉄や地下街への被害である
丸ノ内や大手町付近では地表に到達するよりも6時間ほど早く、トンネル経由で洪水が到達する。霞ケ関や赤坂、六本木では地表に洪水は到達しないが、駅と線路は水没するなど、トンネルが導水管となり被害が拡大する危険があると指摘されている。
「都営大江戸線は『地下の山手線』として駅が他の路線と連絡している。北千住(足立区)のような標高の低い地域が浸水して地下鉄に雨水が大量に流れ込んだ場合、地下トンネルを通じて都心まで水が届き、丸の内(千代田区)で水が噴出するといったことも考えられます。都内の地下街も水没の危険性があります」(土屋氏)実際、2004年10月には台風22号の影響で東京都の古川が氾濫し、地下鉄麻布十番駅のホームに水が流れ込んだ。
もちろん、鉄道会社は豪雨時の水没を避けるために防水扉を設けるなど、さまざまな対策をしている。しかし、それが有効なのは、都のインフラが豪雨に耐えることができた場合の話だ。都内の雨水は下水管を通じて排水されるが、対応能力は1時間に50ミリ。今回のように、1時間に100ミリを超える降水量になった場合、排水能力は追いかない。ゲリラ豪雨の増加で、今日の浸水被害の半分以上は「内水氾濫」なのだ。
つまり、排水溝が排水能力を超え、それ以上吸い込むことができず、浸水が始まる。コンクリートやアスファルトの多い都会ではあっという間に水かさが増してしまう。川の近くでなくても水害は起こるのだ。2005年の水防法改正により、浸水想定区域や非難情報を住民に周知することが市町村に義務づけられることとなり、ハザードマップが配布されるようになった。しかし、ハザードマップが配布されても捨ててしまったり、失くしてしまったりと、活用している人はまだまだ少ない。
さらに、「日本沈没」(朝日新書 河田恵昭著)によると・・・
「現在、想定されている氾濫と洪水の計算条件が甘い(現実的でない)という問題がある。何しろ、各駅の地上との出入り口に、高さ1mの止水板が設置されていれば良いという基準である。確かに、東京メトロの二重橋駅前や霞が関駅などには階段下に高さ30cm程度の数枚の止水板が用意されているが、全ての駅の出入り口には用意されているわけではない上に、地下鉄への連絡通路に付近のビルの出入り口が直結している例が見られる。東京駅や大手町駅などはその代表で、まるで迷路のような地下連絡通路網があり、巨大な超高層ビルの地下と接続している。過去に地下空間の大規模水没を経験していないが故に、今後も起こらないかのような錯覚の上に立った無策がまかり通っているといえよう。」
地下鉄構内への水の流入を防ぐ止水板だ。東京メトロによればこうした対策が必要な場所は509カ所。そのうち工事が完了しているのは179カ所だという。しかし、30cmの止水板で十分なのか?また客を全て地上に誘導した後でないと止水板を取り付けられない。混乱は起きないのか?
対策編
● 危険エリアを知る3つのキーワード
1)地名
首相官邸近くの「溜池」交差点は文字通り、かつて溜池だったところで大雨時には浸水しやすい。「渋谷」も名の通り、渋谷駅はすり鉢の底のような谷になっている。「日比谷」はかつて入江だった。
このようなところは地震の際も地盤が緩いので揺れが大きい。そして大雨
時には洪水被害を受けやすい。戦後の地下水の組み上げで地盤沈下したゼ
ロメートル地帯も言うまでもなく水害に弱い。
2)人工造成の川
多摩川などは河川敷が広い。しかし、目黒川、神田川、石神井川、渋谷川など人工造成の川は河川敷がなく、川底、川壁がコンクリートで、水が染み込まず、多量の雨で急激に水かさが増す。
3)地形
最近は東京の地形を3Dマップで表す本が市販されている。こうしたマップで見ると、赤羽や赤坂など高低差が大きいところでは多量の雨が斜面を滝のように流れ出す。崖下や、斜面に立つ家、裏山がある場所は川の近く同様、危険箇所である。防災とは「地域」を知ること。自分の生活圏の地形を知っておく事。
ハザードマップには、避難場所や想定される浸水範囲のほか、自治体の避難勧告や避難指示に基づき、住民が取るべき行動が示されている。
西日本豪雨で堤防が決壊し、広い範囲が浸水した岡山県倉敷市真備町地区では、高齢者を中心に多くの犠牲者が出た。しかし、浸水した地域は、市が作成した洪水・土砂災害ハザードマップの想定とほぼ重なっていたのだ。国土地理院によると、今回の浸水範囲はハザードマップとほぼ一致し、最も深かった所は約4.8メートルと推定された。なぜ被害は防げなかったのか。
真備町の被災者からは「まさかこんなことになるとは思わなかった」というコメントがあった。また、他の被災者は「緊急防災無線やテレビで情報を把握していたが、実際に迫る水を見るまで重い腰が上がらなかった」とコメントしている。記録的大雨情報が2回出たら8割は被害が出る。しかし、避難勧告が出ても、その時点での天気模様を自分で判断して、「夕方非難すればいい」と思っているうちに孤立してしまったケースもある。「まさかここまでは浸水するまい。」という過去の経験からの正常化バイアスもある。もう「まさか」の言葉を聞きたくない。ハザードマップで自分の家は浸水の可能性があるのか、どの程度の浸水なのか、知っておく必要がある。
真備町の被災者からは「まさかこんなことになるとは思わなかった」というコメントがあった。また、他の被災者は「緊急防災無線やテレビで情報を把握していたが、実際に迫る水を見るまで重い腰が上がらなかった」とコメントしている。記録的大雨情報が2回出たら8割は被害が出る。しかし、避難勧告が出ても、その時点での天気模様を自分で判断して、「夕方非難すればいい」と思っているうちに孤立してしまったケースもある。「まさかここまでは浸水するまい。」という過去の経験からの正常化バイアスもある。もう「まさか」の言葉を聞きたくない。ハザードマップで自分の家は浸水の可能性があるのか、どの程度の浸水なのか、知っておく必要がある。
● 地下を出て垂直非難
都が作成したシミュレーションによると、浸水想定地域には昼間に395万人が生活をしている。想定される最大の浸水の深さは10メートルで、23区のうち17区が浸水想定区だ。17区のうち、墨田区の99%、葛飾区の98%、江戸川区の91%、江東区の68%、荒川区と足立区も5割以上が浸水するという。
リバーフロント研究所技術参与・土屋信行さん:「目前急迫に水が迫ってきたら垂直避難しかない。おおむね東京で考えると3階までは水没の可能性があるので、4階以上のフロアを探して逃げ込んで頂きたい」
「ゼロメートル地帯に住んでいる住民は、豪雨時に逃げる場所を決めておく。避難場所になることの多い病院やスーパーなどは、浸水を想定した準備をしておくことが必要。地下に発電機や非常時の飲食物を保管していることなどは論外です。豪雨時に地下鉄や地下街にいた場合は、状況を見て地上に出た方がいい。ハード面では、スーパー堤防や排水能力を高めるなど、インフラ整備を早急に進めることです」(土屋氏)
豪雨災害の対応の基本は「高いところに行く」。マンションの1階に住んでいる人は、上層階に逃げること。一軒家に住んでいる人は、近所の高い場所を調べておき、避難場所を決めておくことが大切だ。ゼロメートル地帯は避難できる高い建物が少ない。避難用高台の設置が急がれる。危険地帯では浸水が5mから最悪10mという。消防署、自治体では十分な「救命ボート」の用意などもしておく必要があるだろう。
また、細い階段を降りた地下階のスナックなどは水が流れ込み始めると水圧で内側からはドアが開けられなくなる。1にも、2にも情報。大雨警報が出たら空振りでも、早めに地上階へ出ることだ。
地震の場合は地下がより安全な場合もある。しかし、水害の場合はとにかく上へ。特に地下鉄駅構内にいた場合はすぐに地上階へ、そしてさらに高い場所への避難が望ましい。
● 罹災証明の被害認定のために写真を撮っておく。
罹災証明は政府の定める被害認定に基づき、地方自治体(市町村)が調査を実施して発行する。罹災証明があると税遇措置が取られたり、生活支援など受け取れるが、被害を正確に報告するために被害状況を写真に撮って置く必要がある。水害の場合は1階の屋根まで浸水すると全壊と見なされる。
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国土交通省荒川下流河川事務所制作の「フィクションドキュメンタリー『荒川氾濫』」がYoutubeに上がっています。このタイトルで検索してください。映像で見ると一目瞭然です。ぜひ、一度ご覧ください。
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次期東京災害対策担当
日本防災士機構公認 防災士
栗原一芳(くりはら かずよし)
contact@crashjapan.com